2005年9月アーカイブ

watermusic.jpgブーレーズがヘンデルの有名な「水上の音楽」と「王宮の花火の音楽」を指揮したCDはかなりの奇盤と言えるでしょう。いわゆる「古楽奏法」のようなものがそれほど行われていなかった時代の録音なので、今の感覚からいくと恐ろしくテンポが遅いのですが、かといって「大時代的」なロマン派風な重厚さもなく、むしろ軽やかな印象を与えます。ブーレーズの他の演奏と同様、アンサンブルが極度に正確なのは言うまでもありませんが、トリルの全ての音までもクリアーに聞こえてくるのには思わず唸ってしまいます。ヘンデルのオーケストレーションはもともと薄めで普通に演奏してもスコアの音が全て聞こえてきますが、ブーレーズはそうしたスコアですら、さらに透明度を高めて、これでもかというくらいに楽譜の音符全てを浮き上がらせ、何でもないようなアルペジオの音形も造形的に聞こえてきます。
いかにも独創的で個性的な解釈、というやり方ではなく、ブーレーズなりに直球勝負で演奏した結果が一歩間違えると通俗名曲になってしまう有名曲を結果的に異化してしまったのは、彼が振ったベートーヴェンの「運命」の例と同じです。

似たような企画としてシュトックハウゼンがハイドンやモーツァルトのコンチェルトを振ったものがありますが、シュトックハウゼン作曲のカデンツァ以外、一見変わったところがないように見えても、じっくり聞いてみるとすべての音形を几帳面なまでに弾き込んで丁寧に浮き上がらせている、かなり異様な演奏であることに気付きます。

誰でも知ってる山田耕筰の歌曲「待ちぼうけ」の歌詞はご存知かと思います。

待ちぼうけ 待ちぼうけ
ある日せっせこ野良かせぎ〜♪

せっせこ?

そう、「せっせと」ではなく「せっせこ」なのです。
きちんとした楽譜をみるとたしかに「せっせこ」となっています。
作りの甘い楽譜には「せっせと」と書いてあるものもありますし、ネットで歌詞を検索すると「せっせと」が圧倒的に多いですが、(100%の確証は持てないものの)かなりの確度で「せっせこ」であると言って良いと思います。

ほとんどの人は「せっせと」と信じて疑っていなかったでしょうし、私も約半年前まで全く気が付かなかったのですが(そしてほとんどの私の同業者もそうだと思います)日本のこうした作品は、間違った形で広まったものが結構多くあります。

同じ山田耕筰の「砂山」のピアノパートはニ短調の自然短音階で書かれていてドの音ががシャープでないことを強調するためにナチュラルを付けていたら、この曲がハ短調に移調されて出版された際、シの音に誤ってナチュラルが付けられて(本来は変ロ音に移調されるべきです。)普通の短調のようになって、そのまま広まってしまったという例があります。

同じ歌詞の中山晋平の「砂山」では8分音符が2つつながった時にはいわゆるジャズのスイングのようにターカといった3連符風に歌うべきだ(冒頭の「はずむように」という指示がそのことを指し示しています)ということが作曲者の弟子などに伝えられているのですが、これに関してもほとんどの人が8分音符を楽譜通りに歌ってしまってますし、そうした伝承があること自体を知らない人も相当多くいると思われます。

卒業式で良く歌われる「仰げば尊し」も「あおげば」ではなくて「おおげば」と発音するのが正しいのではという意見もあります。(もともとは「あふげば」と表記されていました)

そもそも文部省唱歌として知られている多くの作品は第3者が歌詞だけでなくメロディーやリズムを好き勝手に改作していて、それがあたかもオリジナルのように知られていたりもします。

日本の西洋音楽の歴史はたかだか100年ちょっとですが、誰でも知っている有名曲でこんなに疑問点だらけです。その割に原典研究がそれほど進んでいないようですが、この辺の事情は藍川由美さんの著書に詳しいです。

先日お知らせしたシュトックハウゼンの新譜CD「来たるべき時のために」(全集17.1巻)がキュルテンより到着しました。
30年以上前に作曲した直感音楽を今録音してどのようになるのか興味津々でしたが、この曲集の残りも聞きたくなるような非常に美しい仕上がりでびっくりしました。
演奏は「ヴァイマール直感音楽アンサンブル」というピアノ(ハーモニウム)、トランペット、チェロ、シンセサイザーの4人の奏者で構成されたアンサンブルです。シュトックハウゼンとこのアンサンブルは常にコラボレーションをしている訳ではなくて、「細く長い」コンタクトが今回の録音につながったようですが、一聴してシュトックハウゼンの音、と分かる作曲者への共感の高い演奏で、上記のような一件音色が限定されているように感じられる編成での演奏とは思えないほどのサウンドのヴァリエーションの豊かさ、テクスチュアの豊富さに大いに驚きました。

数行のテキストのみが「楽譜」となっているのですが、実はその短いテキストの中に音楽の方向性が巧みに示唆されているので、演奏に際しては、いかにその作曲家の意図を汲み取り、クリシェに陥ることなく演奏していくか、ということが重要なポイントとなります。さらにアンサンブルの中ではお互いの演奏を注意深く聴き合って全体のバランスを保つことも重要ですが、当然この演奏ではそうした基礎的な(しかしハードルが高い)ことはクリアーしています。

心の深層に潜む何ものかを音像化したような内省的なサウンドが支配的ですが、細かい音色やテクスチュアの揺らぎを極めて優秀な録音のお陰で存分に楽しむことが出来ます。

ちなみに、意図的なのかどうか分かりませんけど各曲の演奏時間がどれも判を押したように10分前後に収まっています。

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おしらせ

双子座三重奏団うるう日ライヴ
2012年2月29日19:00-
門仲天井ホール

双子座2012チラシtogo.jpg

中川俊郎:バッハーズ・アロウ
森田泰之進:こうふくのしま
鈴木治行:蛇行
山本哲也:スライドホイッスル三重奏曲
ケージ:ラジオ・ミュージック
ほか

出演:
曽我部清典(トランペット)
中川俊郎(ピアノ)
松平敬(声)

コンサート詳細はこちらまで

■タリス:40声のモテット
(一人の歌手による多重録音)

ご試聴、ご購入は以下まで
iTunes
e-onkyo music
OTOTOY

■松平敬 1stアルバム
《MONO=POLI》

 マショーからケージまでの声楽アンサンブル作品を、多重録音によってすべて一人の声のみで演奏したアルバム。
 16声部のリゲティ《ルクス・エテルナ》も収録。

ENZO Recordings
EZCD-10006
平成22年度文化庁芸術祭
レコード部門優秀賞受賞作品

文化庁芸術祭シンボルマーク

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