2006年4月アーカイブ

pandra.jpgベルクの有名なオペラ「ルル」と同じ原作を元にした無声映画(1929年)のDVDです。なんといってもルル役のルイーズ・ブルックスがはまりすぎです。絵に描いたような「魔性の女」の魅力全開ですが、彼女に群がる男性達のキャラ立ちも強烈です。アルヴァ、シェーンは役にぴったりのキャスティングをしているのはもちろん、シゴルヒの醜悪なキャラクターは特に衝撃的です。ゲシュヴィツの、一目でレズビアンと分かる演出も絶品です。
とにかくモノクロの映像が美しく(サイレントだけに映像により注意が向かいます)、130分という上映時間がそれほど長く感じないほどですが、私としてはどうしてもベルクのオペラと比較しながら見てしまいます。

細部で色々と違いはありますが、大筋ではベルクの「ルル」と同じようなストーリー展開です。最後に切り裂きジャックに殺されるところも同じですが、ベルクのオペラのようにドラマティックな演出ではなく、淡々とした幕切れになっています。

サイレントなので当然、伴奏音楽が終始流れていますが、もちろんベルクの音楽とは全く異なる、当時の映画音楽の王道を行くような軽妙な曲が付けられています(ベルクのオペラの中にもジャズを模したような音楽が出てくるので、そことの関連性も指摘できなくもはないです)が、これも退廃的な雰囲気を醸し出していてなかなか良いです。

以前クリスティーネ・シェーファー主演の「ルル」のDVDを紹介した記事も書いてありますので、そちらも宜しければご覧下さい(以下リンク)。
http://matsudaira-takashi.jp/klang_weblog/2004/03/post-76.html

h-m.jpgシェーンベルクのオペラ「今日から明日へ」を映画化したもののDVDです。シェーンベルクのオペラといえばどうしても「モーゼとアロン」ばかりが注目されがちですが、このDVDを見ると「今日から明日へ」も中々捨てたものではないな、と思えるのではないでしょうか?1幕ものの1時間ほどのオペラで内容も夫婦のちょっとした喧嘩を取り扱った軽い内容ですが、音楽はシェーンベルクらしい充実したもので、最初はこうしたストーリーを12音技法を使って作曲する必要があるのか、とやや疑問だったのが、最後の4重唱では思わず唸ってしまうまでに音楽に引き込まれてしまいました。ちなみに演奏はギーレン指揮による非常にしっかりとしたものです。(同一演奏者によるCDも出ていますが、テイクは異なっていると思います。解説によると撮影しながら同時に演奏しているとの事。)
ストローブ=ユイレによるモノクロの映像も美しく、全編数台の固定したカメラのカットの交替だけで通すストイックな効果(つまり画面が動きません)が印象的です。カットが切り替わったら歌っている人ではなく椅子だけが写っているカットがあったり、4人で歌っているのに常に二人ずつしか映さなかったり、という、場面全体を見せない演出も、緊迫感を高めています。

付録として『アーノルト・シェーンベルクの《映画の一場面のための音楽》入門』という短篇がついていて、シェーンベルクをとりまく反ユダヤ主義との関わりが赤裸々につづられますが、「映画の一場面のための音楽」にどんな映像がついているか、という興味で見ると期待外れになるでしょう。この音楽も使われていますが、BGM以上の役割は果たしていません。

grpn-pnkt.jpg以前お知らせしていたシュトックハウゼンの新譜がHMVより届きました。
ここに収録されている「グルッペン」「プンクテ」の両作品とも作曲者のサウンド・プロジェクション、監修による、素晴らしい演奏で、こうした良質な音源が簡単に手に入る状況になった事を素直に喜びたいと思います。
但し、なぜかシュトックハウゼンによるサウンド・プロジェクション、監修というクレジットがどこにも入っていないのが気になります。もっともライヴ録音されたコンサートの演奏には立ち合ったものの、ミックス・ダウンやマスタリングに関してはシュトックハウゼンは全く関与していないので、ひょっとするとシュトックハウゼン本人がそうしたクレジットの掲載を拒否したのかもしれません。
実際、演奏は素晴らしく、音質も決して悪くないのですけど、シュトックハウゼン自身がミキシングやマスタリングに関わればもっとクリアーな音質に仕上がったのではないかと思います。
「プンクテ」は同一音源がシュトックハウゼン出版からも既に発売されているので聴き比べる事ができますが、やはりマスタリングの違いはそれなりに出ています。
シュトックハウゼン出版盤に比べて音量レベルが若干小さく抑えられているのと、最低音域がカットされているのが、ざっと聴いただけで分かります。主観が入っているかもしれませんが音も少しやせて聴こえる気がします。
そういう訳で、この作品の真価を知るためには同一音源であってもシュトックハウゼン出版盤をお薦めしますが、こちらのアルバムでも「プンクテ」の作品としての素晴らしさはそれなりに伝わってくると思います。
「グルッペン」は3つのオーケストラというキャッチーなポイントがあるのでなにかと注目されやすいですが、「プンクテ」はかなり過小評価されていると思いますので、これが再評価のきっかけになれば、と期待しています。
(これで「グルッペン」もアバドの劣悪な演奏ばかり出回っている状況から抜け出せるでしょう。。。)

「グルッペン」も同様に音量レベルが低めにマスタリングされていますので、作品の細部まで味わい尽くすには少し大きめのヴォリュームで聴く事をお薦めします。

この新しい録音を聴いた後で初録音の方をもう一度聴き返すのも、新たな発見があって中々面白いですよ。

参考ディスク
「プンクテ」75年録音盤
「グルッペン」65年録音盤
「プンクテ」新録音@シュトックハウゼン出版

先日のバリトンのための現代曲レパートリー、少し補充して独立したページにまとめました。
もっと有用なリストとなるためには楽器編成を全曲記入したり、演奏時間や楽譜の出版社などの情報、各作品の解説へのリンクなどが必要かと思われますが、それが完成するのを待っているといつまでもアップできないので、とりあえず曲目だけアップです(拙HPには「とりあえず」と名のついた未完成コンテンツがあまりにも多い気もしますが。。)。これが何か未来の企画に繋がっていくと良いのですが。。。

http://matsudaira-takashi.jp/archive/rep.html

ある声楽関係の団体の会報のために依頼されて執筆した原稿を以下に紹介します。
オペラや歌曲などの一般的な声楽曲には興味はあるけれども現代曲にはほとんど無縁な愛好者を想定して書いたものです。

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 皆さんは、「声」とは何か、「声」が他の楽器の音色と全く異なった存在であらしめるものは何であるか、深く考えてみた事があるでしょうか?
 まず、すぐ思いつくのは「声」は「ことば」を持っている事です。では、なぜ楽器は「ことば」を話せないのでしょうか?一見馬鹿馬鹿しく思われるこの問いに「声」の秘密が隠れています。「あ」「い」が別の音として聞こえるのは母音が異なっているからですが、母音の違いは器楽的に言えば音色の違いということになります。日本語で母音は5種類、英語やフランス語だともっと沢山の母音がありますが、それはすなわち沢山の音色の違いをコントロールすることに対応します。楽器で同じ事をしようとするとどうなるでしょう?トランペットだと様々な種類の弱音器を付けたり、ヴァイオリンだと通常弓で弾くところを、手で弦を弾いたり、通常と異なる場所に弓を当てたりすることによって多彩な音色を使い分ける事ができますが、日本語のたった5種類の母音を演奏し分ける事すら出来ません。ことばにはさらに子音があり、子音がそれほど優勢でない日本語でも10種類以上の子音がありますが、楽器でこうした音を完全に区別する事は当然不可能です。母音はピッチがはっきりしていて楽譜に音高を正確に記譜できる音(楽音)ですが、子音は明確なピッチを持たない、打楽器風でノイズ的な音響で、声はこうした多彩な音響を楽々と複雑にコントロールできる魔法の楽器であるといえます。最近巷で流行っているヴォイス・パーカッションもこうした声の特性を生かした好例といえるでしょう。
 ことばの違いによる音色変化以外にも「声色」を変える事によりさらに音色変化のヴァリエーションを増やす事ができますし(例:鼻にかける、息混じり、ファルセット、ホーミーetc.)、指を鳴らしたり、手を打ったり、という体から発せられる音も声の延長とみなせば、一人の人間の体からありとあらゆる音響を生成する事ができるといっても過言ではありません。ある作曲家は「ギターは小さなオーケストラである」と言ったそうですが、現代流に言えば「声は生けるシンセサイザーである」と表現できるでしょう。
 イタリアの作曲家ルチアーノ・ベリオLuciano Berioが1966年に作曲した現代声楽曲の古典「Sequenza III」では今まで述べてきた声の多彩な可能性が徹底的に追求されています。「ことば」は音素の単位まで分解される事により「意味」から解放された抽象的な音響へと変容し、それがさらに、日常生活から切り離された笑い声や喘ぎ声など様々な声の表情と組み合わされる事により、変幻自在な音色の世界が立ち現れます。しかも、その抽象性と声の肉体性が絶妙に共存することにより音楽としての深みが一層増しているところも興味深いです。皆さんも一度この「声」の未体験領域を体験してみてはいかがでしょう?

iTunes Music Storeで東大の講義がPodcastとして配信されています。動画再生機能のついたiPodを持っている人なら電車の中で東大の講義を聞けるという訳です。
もちろん登録無料です。
下のボタンがリンクになっています。


東京大学 - 学術俯瞰 第1回:小柴昌俊「宇宙と素粒子 !)物質はどのように創られたのか!)」

バリトンのための現代作品のレパートリーをまとめるべくざっとリストアップしてみました。(オペラは除外)
これまで歌ってきたもの(太字)、機会があったら歌ってみたいものを作曲者別にまとめてみましたが、やはり非常にお寒い分量でがっくりしてしまいます。
クセナキスのAis(バリトン・ソロ、打楽器ソロ、オケ)のような個人レベルでは100%実現不可能な曲もリストに入っていますし、そこまで大変でなくても予算的に実現困難な曲も多いので気軽に演奏できる曲はもっと絞られる事になります。

その中でひときわ光っているのがケージです。
「ソング・ブック」だけで90曲ほどありますし、ここにリストアップしていない作品もまだまだあります。声のレンジを気にしなくて良い曲がほとんどなので余計に選択肢が広いですが、他の作曲家も彼くらい声の曲を書いてくれれば、と思わずにはいられません。

他に私が演奏できそうなレパートリーがあればご教示頂けると嬉しいです。

Goerges Aperghis: Le rire physiologique [bar. pf.]
Goerges Aperghis: 14 Jactation

Luciano Berio: Sequenza III

John Cage: 4'33''
John Cage: Aria
John Cage: A Flower
John Cage: Ryoanji
John Cage: Song Books
John Cage: 62 Mesostics Re Merce Cunningham
John Cage: Eight Whiskus
John Cage: FOUR6
John Cage: Radio Music
John Cage: The Wonderful Widow of Eighteen Springs

Cornelius Cardew: Volo Solo
Cornelius Cardew: Treatise

Morton Feldman: Intervals [bass-bar. tb. vc. perc.]
Morton Feldman: The O'Hara Songs [bass-bar. chimes pf. vn. va. vc.]
Morton Feldman: Only

Mauricio Kagel: Rrrrrrr...
Mauricio Kagel: Fürst Igor, Stravinsky
Mauricio Kagel: Phonophonie
Mauricio Kagel: Exotica

György Kurtág: Hölderlin-Gesänge, op. 35a
György Kurtág: Drei Lieder, op. 11a

György Ligeti: Der Sommer
György Ligeti: Aventures
György Ligeti: Nouvelles Aventures

Alvin Lucier: Music for Baritone with Slow Sweep Pure Wave Oscillator [bar. tape]
Alvin Lucier: Fruits and Vegitables [bar. pf. tape]
Alvin Lucier: Lullaby

Aribert Reimann: Entsorgt

Giacinto Scelsi: WO MA
Giacinto Scelsi: Maknongan
Giacinto Scelsi: Ogloudoglou [man voice, perc.]
Giacinto Scelsi: Yamaon [bas. 5 players]
Giacinto Scelsi: Canti del Capricorno

Salvatore Sciarrino: Quaderno di strada

Kazimierz Serocki: Serce nocy

Karlheinz Stockhausen: Tierkreis
Karlheinz Stockhausen: Die 7 Lieder der Tage
Karlheinz Stockhausen: Spiral
Karlheinz Stockhausen: Stimmung
Karlheinz Stockhausen: In the Sky I am Walking
Karlheinz Stockhausen: Fall
Karlheinz Stockhausen: Tate Yunanaka
Karlheinz Stockhausen: Mastix

Igor Stravinsky: Abraham and Isaac

Iannis Xenakis: Kassandra
Iannis Xenakis: Pour Maurice
Iannis Xenakis: La Déesse Athéna
Iannis Xenakis: Ais

Anton Webern: Cantata No.2

川島素晴:3つのインヴェンション
川島素晴:音楽詩劇『朝日に舞う黒鳥』
高橋悠治:ぼくは12歳
武満徹:小さな空
武満徹:めぐり逢い
武満徹:見えないこども
武満徹:翼
武満徹:うたうだけ
武満徹:ワルツ
武満徹:島へ
中川俊郎:ベルジュレット
中川俊郎:浴室のアルキメデス
中川俊郎:うみのきりん、かわからきたおさかな
松平敬:双子座三重奏曲
松平敬:まそなつかか
松平頼暁:It's gonna be a hardcore!
松平頼則:古今集
湯浅譲二:天気予報所見
湯浅譲二:「R. D. レインからの二篇」

7日の「双子座三重奏団2nd LIVE 〜春の宵〜」はお陰様で無事に終了しました。ご来場、応援下さった方に改めてお礼申し上げます。

チラシ、当日配布したパンフレットなどの資料をPDFにしてまとめてますので、ご興味があれば参考になさって下さい。
http://matsudaira-takashi.jp/archive/gemini2.html

とっちらかったプログラムでしたが、マニアックに吟味してもらえれば、それぞれの作品の間に様々な次元での連関があることが分かるかと思います。

ごく一部を紹介すれば、私の新作「まそなつかか」で倍音唱法、あるいはトランペットの自然倍音を多用したのに対して、ルシエでは倍音を一切含まないサイン波が作品の主要要素として用いられています。中川氏の新作「浴室のアルキメデス」の一部にもトランペットの自然倍音による即興的な部分もありますし、このタイトル自体カーゲルの「ヒポクラテスの誓い」とセットになるように、ということで決めたものです。

「春の宵」というタイトルにちなんで、アンコールは「花」というタイトルのついた二つの作品(滝廉太郎、ケージ)をメドレーで演奏しましたが、滝廉太郎の方には原曲にさまざまな春の曲をコラージュしたり、モーツァルトのイ長調のピアノソナタの断片をイントロとしてくっつけたり、と連奏ゲームのような趣向を凝らしました。

モーツァルトのお下品な歌詞のカノン(日本語訳による演奏)はバカ受けなのはある程度想像がつきましたが、ルシエが評判が良かったのに個人的には意外に思うと共に嬉しかったです。
ルシエのサイン波ものと聞くと、また彼のワンパターンか、と辟易する人もいそうですが、実際のライヴ会場でサイン波のCDを再生したときの音響の感触にはかなり独特なものがありました。

リハでPAの方とかなり議論して生音とCDのバランスを工夫したつもりだったのですが、お客さんが入る事によってそのバランスが相当に変わってしまい、CDのヴォリュームをリハの時よりはかなり落とさざるを得なかったという話を終演後に聞きましたが、特殊な音響なだけに、この辺の調整の難しさも実感しました。

こうした電子音響を伴う曲を一般的なクラシックのホールでやろうとすると、予算的にかなり負担が大きくなって大変ですしエンジニアの人が協力的とも限らないのですが、今回のようなライヴハウスであれば、PAは「標準仕様」なので追加料金のことを気にせずに気楽に使える、というのが便利です。ルシエ以外にも特殊唱法の部分をいくつかマイクで若干拾ってもらいましたが、少し話をしてみて信頼できそうな人だと分かったので、大まかなイメージだけ伝えて細かい判断はその人の裁量に任せる事にしました。終演後に今回の音響の仕事が面白かったと言ってもらって、私としても嬉しかったです。

ルシエは演奏、バランスの面でさらにブラッシュアップできるはずですが、バリトン、ピアノ、サイン波のための「果物と野菜」という作品の譜面、演奏用CD-Rを持っているので、この日本初演もいつか実現したいと思います。

余談ですが、本番日ぎりぎりまで声帯の不調によりほとんど歌えない状態が続いていて、ライヴの開催自体も危ぶまれるほど重症だったのですが、ある方の紹介して下さった病院(以下リンク先)での迅速な処置により何とか本番を持ちこたえる程度までに回復させる事が出来ました。

東商ビル診断所

日比谷駅近くという場所柄か、ミュージカル俳優風の人が沢山来院してましたが、俳優、歌手の声の事情を勘案した上での治療を行ってもらえるので、声を使う職業の方は緊急事態の時のためにここをチェックしておくと良いと思います。

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おしらせ

双子座三重奏団うるう日ライヴ
2012年2月29日19:00-
門仲天井ホール

双子座2012チラシtogo.jpg

中川俊郎:バッハーズ・アロウ
森田泰之進:こうふくのしま
鈴木治行:蛇行
山本哲也:スライドホイッスル三重奏曲
ケージ:ラジオ・ミュージック
ほか

出演:
曽我部清典(トランペット)
中川俊郎(ピアノ)
松平敬(声)

コンサート詳細はこちらまで

■タリス:40声のモテット
(一人の歌手による多重録音)

ご試聴、ご購入は以下まで
iTunes
e-onkyo music
OTOTOY

■松平敬 1stアルバム
《MONO=POLI》

 マショーからケージまでの声楽アンサンブル作品を、多重録音によってすべて一人の声のみで演奏したアルバム。
 16声部のリゲティ《ルクス・エテルナ》も収録。

ENZO Recordings
EZCD-10006
平成22年度文化庁芸術祭
レコード部門優秀賞受賞作品

文化庁芸術祭シンボルマーク

プロモーション・ヴィデオ

ご購入は以下まで:
HMV ONLINE
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