KLANG:2時間目「喜び」

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KLANG:1時間目「昇天」前編中編後編

 二人の歌手を伴ったオルガン(またはシンセ)のための大作である1時間目「昇天 HIMMELFAHRT」に続く、KLANGの「2時間目」の作品は二人のハーピストのための「喜び FREUDE」です。この作品も「昇天」と同様にミラノの大聖堂で演奏されるために委嘱を受けたものです。
 50年前、若きシュトックハウゼンの電子音楽の新作「少年の歌」をケルンの大聖堂で演奏をしようと試みるも、スピーカーを(神聖な)教会の中に置く事はできない、という理由で教会側から演奏を拒否されましたが、いまや逆に、教会からシュトックハウゼンに作品を次々と委嘱するまでに時代が変化してきた事には感慨深いものがあります。

 この作品はペンテコステ(聖霊降臨祭)に初演されましたが、それにちなんで「Veni, Creator Spiritus」の24行の詩が二人のハーピストによって歌われます。そしてこの24行の詩がこの作品の24のモメントに対応するように作曲されますが、当然ながらKLANGの連作が全体が1日の24時間を音楽的に表現する事と関係があります(1時間目「昇天」では全体が24のテンポの半音階のセリーを成すような24の小部分に分かれていました)。
 音楽素材としては「昇天」で使われた24音のピッチのセリーやリズム・ファミリーが流用されていますが(例えば作品の始めに歌われる「Veni Creator」と歌う箇所にはこのセリーの冒頭6音の移高形が使用されています)、「昇天」とは全く違った方法でこれらの音楽素材が展開されているように聞こえました(楽譜を見ていないので詳細不明)。
 
 シュトックハウゼンのハープのための作品は、前例がないため、どういう響きがするのか全く想像がつきませんでしたが、いかにもハープらしい響きがする、というのが第一印象でした。
 当然のように思われるこのことは多くの現代作曲家に忘れ去られています。楽器の様々な音色の可能性を発見して特殊奏法として採用していく事は、シュトックハウゼンを含む多くの作曲家によって数多く行われています。しかし、その実験精神ばかりが独り歩きして、その楽器本来の持ち味を生かす、という側面が多くの作曲家にとって忘れ去られている思うのです。例えば、オーケストラの作品を書くのに電子音楽のような音響を試みるよりはオーケストラらしく響く作品を作るべきであるし(電子音楽的な音響が必要であるのなら、電子音楽を作曲した方が簡単で機能的でしょう)、電子音楽を製作するのに、そこでオーケストラの音色を模倣するのは馬鹿げている、という主旨の文章をシュトックハウゼンは書いていたことを思い出しました(そうした観点から見ると、「昇天」は実にオルガン的であるといえます。シンセで演奏しても、ものすごく機能の進化したオルガンの演奏を聴いているような気持ちになります)。
 
 いくつかの特殊奏法も使っていますし、声とハープの音色の重なり合いも美しい効果を上げていますが、ハープ特有の音色や音響がこれほどまでに効果的に生かされ、且つシュトックハウゼンの音楽として成り立っている、ということは私にとって非常に驚くべき事でした。
 色彩感豊かなトレモロやアルペッジョの多彩で美しい効果は、シュトックハウゼンがハープという楽器の機能を知り尽くしていることを伺わせますし、複数の弦を平手で叩くなど、様々な方法で弦を鳴らす特殊奏法も面白い効果を上げていました。一度弦を鳴らしたら基本的に音高の変えられないハープのサウンドに声のグリッサンドを組み合わせたり、Sなどの子音を弾き延ばしたノイズ的サウンドを付加したり、というシュトックハウゼンお得意の手法も数多く見られ、フォルテで演奏された和音の減衰音のみを聞くような楽想(ミラノの大聖堂の長い残響時間を考慮したのでしょう)は遠い過去の作品「ルフラン」すら思い起こさせますが、そうした抽象的な要素と、メロディックなフレーズ、調性感すら感じさせる柔らかい響きの和音などが違和感なく結びついているところも興味深いです。
 もっとも印象的だったのが、グリッサンドの使い方です。このハープのグリッサンドは美しく神秘的な響きを持っていますが、ムード・ミュージックなどで濫用されたために、使いすぎると陳腐でありきたりな印象すら起こさせかねない諸刃の剣と言えます。シュトックハウゼンはこの作品で、その「危険な」グリッサンドを本当に到るところで使っていますが、陳腐な効果に陥るどころか白昼夢を思わせるような夢幻的な世界を描き出していました。
 
 演奏した二人(一人はカティンカの姪)の白い衣装やボーイ・ソプラノを思わせるような純粋な声も相まって、二人の天使が歌いながらハープを演奏しているかのようなステージでしたが、40分という長い演奏時間にも関わらず、そうしたキャッチーな演出と比較的親しみやすい曲想は聴衆の大絶賛を引き出しました。
 シュトックハウゼンも作曲、演奏ともに非常に気に入っているようでしたが、あまりにも入れ込みすぎていたせいか、この作品のゲネプロではサウンド・プロジェクションに関してちょっとしたことで周りのスタッフに強い苛立ちをぶつける異例の機嫌の悪さを見せていました。この聴衆の大喝采も、シュトックハウゼンのなりふり構わぬ努力の甲斐あってのことなのでしょう。

KLANG:3時間目「自然の持続時間」へ続く

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質問ですが サウンドプロジェクションはどの程度、音響に関与しているのでしょう スピーカーの配置その他について

通常のシュトックハウゼン作品の器楽作品と同様です。

ハープ、声をマイクで増幅してステレオ(+α)のスピーカーから音を出します。
この曲に関しては生音に特殊なエフェクトをかけたり、ということはしていませんが、ちょっとしたセッティングで音像のクリアーさ力強さが極端に変わります。
このハープの曲も同じ日のリハと本番でまるで違っていたのでびっくりしました。

「ステレオ(+α)」というのもポイントで後方のスピーカーからも若干音を出しているので音が間近に聞こえます。

テープ上演だった「土曜日の別れ」はCDそのままかけていますが、後方からもかなり音量をだしているのでサウンドがものすごく立体的になり、あたかも4チャンネルを聞いているような気持ちになりました。
この曲は残響の長い教会の中で演奏されるので、そうした音響の立体感が大事なんですね。

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