私がまだまだマイルス・デイヴィス初心者だったころこの本の「初期ヴァージョン」を参考にアルバムをコツコツと集めていたものですが、強烈な表紙に魅かれて久々にこの本を手に取ってみると内容のあまりの変貌ぶりにびっくりしました。
私がお世話になっていたのは多分Ver.2かVer.3だと思いますが、その頃と違い今や辞典級の分厚さへと成長しています。
収録アルバム数473枚というヴォリュームがものすごいですが、そのうち公式盤は100枚程度、残りはすべてブート盤という異常な比率もこの新ヴァージョンの価値を高めています。
よく知られているようにプロデューサーのテオ・マセロが巧みに膨大なスタジオ、ライヴ音源を編集し一つのアルバム・パッケージへまとめていて、それはそれ自体で1つの芸術品なのですが、マイルスの真骨頂はライヴにあるといえます。
特に60年代半ば以降、全ての曲をはっきり完結させずメドレー形式で繋いでいくようになってからは、一回のライヴ全体が一つの大きな作品のように扱われている訳で、それを無編集の状態で丸ごと聴くというのは大きな意味があります。
ライヴにこそ彼の音楽の本質があるとも言えます。
特に70年代は演奏される曲のテーマがメロディーというよりはモチーフ的断片までに制約されていて、それがロックやファンクを下敷きにした曼荼羅状のリズムの上で抽象的に展開されるので、公式盤での大幅に編集された状態だと、なぜそこでそういうフレーズになるのかという音楽の連関が分かりにくくなっているのです。
当時のLPフォーマットの制約もあり、そうした長大なライヴを全部収めるのは無理だったのですが、現在に至っても本来のライヴのスタイルで聴けるのはほんの少し、マイルスの半世紀にわたる多彩な活動を考えるとお寒い限りです。
そこでブート盤の登場となる訳ですが、種類が本当に多く音質、演奏内容も玉石混交、どれから聴いていいのやら全く分かりませんが、そこでこの「マイルスを聴け!」が出番となる訳です。
それぞれの盤の曲目、演奏メンバーはもちろん、音質や演奏内容に関しても分かりやすく記述されているので、どれから聴けばいいか当たりをつけるのに非常に便利ですし、すでに持っているものに関しても、中山氏はこういう風に考えているんだ、などと自分の感覚との共通点、相違点を比べるのも楽しいです。
最近のブート盤を聴いて思うのですが、公式盤なみの高音質なものも多くパッケージも洗練されてきて以前のいかがわしい雰囲気が少なくなってきています。
中山氏も本書のなかで書いているように、ブート盤のクオリティがどんどん上がっているのに対して、オフィシャル盤として出される各種ボックスセットの内容があまりにも貧弱、というのはうなずけます。
未発表ライヴをまとめてボックス化したようなものは嬉しいのですが、バラ売りで手に入るアルバムの音源に申し訳程度に別テイクや未発表トラックを足しただけのボックス・セットも多いのです。