《ティアクライス》オーケストラ版楽曲解説

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先日、いずみシンフォニエッタによって日本初演されたシュトックハウゼンの遺作《ティアクライス》オーケストラ版のプログラムノートを私が執筆したことは、すでにお知らせ済みですが、当日お越しになれなかった方のために、その時の原稿を以下に転載します。

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 20世紀後半を代表する作曲家、カールハインツ・シュトックハウゼンは、前衛音楽の旗手としてセリー音楽、電子音楽などの革新的な音楽概念を提示し続けた。その先鋭性とは裏腹に、一貫して神や宇宙との精神的つながりを意識し続けた彼の創作態度には、師のメシアンをはじめ、バッハやベートーヴェンらの伝統との連続性が感じられる。

 1974~75年に作曲された《ティアクライス(十二宮)》は、黄道十二宮をなす12の星座を、12のメロディーという「音のかたち」で表現した作品である。オルゴールで演奏されることを前提として作曲されたが、他のいかなる楽器、声の組み合わせでも演奏可能である。演奏時間約30秒の各メロディーはオルゴールさながら3~4回繰り返し演奏され、繰り返しの際、これらの旋律を様々な方法で提示することが演奏者に求められる。
 作曲者自身による版もいくつか作成されているが、本日演奏されるのは、最晩年に作曲されたオーケストラ版である。まず、2004年に〈乙女座〉から〈やぎ座〉までの5曲が作曲され《5つの星座》として初演された。2007年には〈水瓶座〉以降の残る7曲の作曲が進められていたが、同年12月、作曲者の突然の死により、5曲のみが遺された(この5曲は単独で《続・5つの星座》、10曲連続上演される時には《ティアクライス・オーケストラ版》というタイトルになる)。ちなみに、〈双子座〉はシュトックハウゼンが亡くなる前日の夜に完成された、まさに白鳥の歌だ。

 それぞれの星座のキャラクターの違いが、各メロディーの様々な属性と呼応するように作曲されているが、例えば、12のメロディーそれぞれの中心音は、上昇する半音階をなし、さらに各々が12の異なるテンポを持つように構想されている。そして、それぞれのメロディーは独自の12音の音高のセリーを骨格として作曲されている。この構造はあたかも、12の星からなる様々な形の星座が、円環状に12個並んでいるかのようだ。
 12音列と中心音の共存によって、これらのメロディーは調性でも無調でもない独特な響きを持ち、そこには「前衛作曲家シュトックハウゼン」の難解なイメージからかけ離れた親しみやすさが感じられる。

 2004年に書かれた部分は、オリジナルの構想に忠実に作曲され、オーケストラの扱いも一見保守的に感じられるが、メロディーの骨格音ごとに異なる楽器が点描的に重なり、かすかに音色を変化させるなど、旋律の構造を聞き取りやすくする工夫がみられる。5曲を通じて、すべての楽器が均等にメロディーを演奏できるように周到に計画され、1管編成という限定された音色のパレットから、楽器本来の持つ美しい音色の多彩な組み合わせを引き出すことがもくろまれている。一つの音響有機体として構成された、メロディーそのものの造形の面白さにも耳を傾けたい。

乙女座:フィボナッチ数列(≒黄金比)をリズム、和声構造に適用し、均整のとれた美をあらわす叙情的なメロディー。
天秤座:中心音のまわりを上下するメロディー・ラインは、天秤が揺れ動くようだ。
さそり座:サソリの動きを急速なグリッサンドと休符で表現する。
射手座:半人半馬のケンタウルスが天から駆け降り、また天に昇っていくようなリズミックな旋律。
やぎ座:全曲を貫く執拗な音程の繰り返しは、星の瞬きのようだ。


 2007年に書かれた後半5曲は、自ら定めた演奏指示から大きく逸脱する大胆なアプローチが特徴的であるが、あくまでも、それらのアイデアが星座のキャラクターに由来している所も重要である。
 ちなみに、前方に管楽器、後方に弦楽器を配する特殊な楽器配置もスコアに指定されている。
 
水瓶座:冬の寒さを表現したかのような神秘的な旋律が、リズムやテンポの「ずれ」を伴いつつ多層的に演奏される。
魚座:もともと2匹の小魚が並んで泳ぐかのような2声構造で作曲されているが、本版では異なる4つのテンポで同時に演奏されることにより、様々な大きさの8匹の魚が入り乱れるかのような8声の対位法へと拡大される。
おひつじ座:この星座の奔放な性格を表すかのように、オリジナルのメロディーの特定の部分の突然の極端な圧縮や拡大、短いフレーズの機械的な繰り返し、各フレーズの垂直的な重ね合わせによる入り組んだテクスチュアの形成、などの多彩なアイデアが目まぐるしく展開される。
おうし座:突如登場するソリストが奏でる重厚なサウンドは、まさに牡牛の様だ。名技的なソロ・パートだけでなく、管楽器群の極度に入り組んだテクスチュアも聴きどころ。
双子座:浮遊感のある軽やかなメロディーが、2つの楽器群で、フレーズごとに双子のように繰り返されながら演奏される。その背後に広がる弦楽器の静謐な持続和音の響きはシュトックハウゼンの死を予感させるようだ。

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ところでいつオケ版のCDが発売されるのでしょう???
超楽しみなのですが。。。

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