昨日はサントリーホールへ「作曲家の個展2009 中川俊郎」へ行ってきました。
毎年、双子座三重奏団でご一緒している中川さんのオーケストラ作品がまとめて演奏される、ということで楽しみにしていましたが、中川ワールドをたっぷりと堪能しました。
中川さんとオーケストラ、というのはイメージとしてほとんど結びつかないな、と思いつつ、プログラム巻末の作品表をながめていたら、そこにのっていたオーケストラ曲は3曲、その内の2曲が昨晩演奏され、さらにそこにない新曲2曲が披露されたので、昨晩だけで中川さんのオーケストラ作品のほとんどを聴いてしまったことになります。
プログラムと演奏者は以下のとおりです。
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西村朗氏とのプレトーク
中川俊郎:
・合奏協奏曲第2番(1987/88)
・合奏協奏曲第3番(2009)[初演]
休憩
・もの思う葦たち(2003)
・影法師--F.シューベルトの同名の歌曲その他による(2008-09)[初演]
指揮:飯森範親 東京都交響楽団
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《合奏協奏曲第2番》は初演のライヴ録音がCDにもなっていますし、その時の聴衆たちからの強烈なブーイングの嵐も伝説となっていますが、私はむしろ楽しんで聴けましたし、しかし同時にその拒否反応したくなる原因も理解できました。
ちなみにプレトークでこの拒否反応についても話題になってましたが、武満徹、松村禎三などの大物作曲家が一様に完全拒絶といった面持ちだったのに対して、中川さんの師の三善晃は、ひょうひょうと、あのおもちゃはもっと前においた方が、よく聴こえたんじゃない?などとアドバイスしていた、というエピソードは今となっては微笑ましいです。
さて、この作品の楽譜は空白だらけなのですが、そこを各演奏者が即興演奏で埋める、という趣向をもっています。そもそも、記譜された楽譜を忠実に演奏するようトレーニングを積んだクラシックのオーケストラ奏者に即興演奏をさせる、という設定自体が無茶なのですが、作品解説に「即興自体も上手である必要はなく、まったく何をして良いか分からない人が、しかたなく何かをやる、というレベルの人がいて、全く構わない。逆に即興の達人が、一人で浮きまくるのもありである。」と書かれているように、即興演奏の技術の稚拙さも許容してしまうところが大きなポイントです。
そして、出てくる音はどのような音かというと、いくつかの目立ったフレーズはあるものの、端的に言えば、オーケストラの各奏者が本番前に各自バラバラに練習しているようなカオス的な音響に終始し、そこに明確な音楽の進行のようなものは存在しません。究極のデタラメに限りなく近いともいえる音響を聞いて、武満徹のような作曲家が強い拒否反応をしめすのはある意味自然かもしれません。
それでも不思議なのが、このカオスのような音響が単なる「うるさい」音になってしまわない、バランス感覚です。そして、このぐしゃぐしゃした音響の独特な肌触りもなぜか気持ちよくなってくるのですが、オーケストラの奏者たちが楽しみながら演奏していることも影響しているかもしれません。
そして、つづく《合奏協奏曲第3番》は、基本的には第2番と同じ音楽です。
違いは、第2番の空白部分に、作曲者が、即興演奏のためのガイド(具体的な音形やアイデアなど)が書き込まれているということです。つまり第2番で即興の部分だったところが、通常の記譜された楽譜に近づいているのですが、空白の即興部分も残されているとのことです(作曲家としては、まわりの様相が変わることによって、この即興部分の演奏内容に影響が及ぼされることも期待しています)。
第2番とこの作品を続けて演奏することによって、両者の違いを楽しめる趣向になっていますが、カオス的な印象は、即興性の低いはずの第3番の方がかえって強まったのが面白かったです。指揮者を含む各奏者が立ち上がったり客席を動き回ったり、突然モーツァルトのセレナーデを演奏し始めたり(しかしまわりの音とのバランスでほとんど聴こえない)、アナーキーさを強調させるような派手な音形が現れたりと、つまりは、無秩序な雰囲気を作曲者が巧妙に演出している、ということなのです。
この種のパフォーマンスは、オーケストラ奏者は嫌がることが多いのですが、若干悪乗り気味の飯森氏の指揮(+パフォーマンス)と、中川さんの憎めない人柄に刺激されてか、好意的に演奏していたのが印象的でした。
休憩をはさんで、《もの思う葦たち》は前半のカオス的な音響とはがらっと様相を変えます。
この作品のポイントは指揮者を含めた全奏者が同じ楽譜を使用する、ということです。しかもそのスコアは、単純な幾何学的な図形による図形楽譜、そこをどのように解釈するか、というのが演奏上の肝となります。
具体的にどのようなプロセスで演奏を作り上げていったのかは分かりませんが、楽譜に書かれた図形がある程度想像できるような演奏で、前半と真逆のすき間だらけの薄い響きを楽しみました。
最後の《影法師》は今回の演奏会でもっとも「まともな」作品、つまりきちんと記譜された作品です。タイトルにもなっているシューベルトの歌曲の、ピアノで演奏されるパッサカリアのテーマを始めとして、B-A-C-Hの音名象徴、モーツァルトの《ジュピター》の第4楽章のテーマなど、様々な(意図的、そして無意識に導き出した)十字架音形の引用を組み合わせて作品を構成する、という趣向ですが、一見伝統的に聴こえるこの作品に、中川さんの作曲家としての本領を見ました。
その組み合わせ方の和声的センス、透明感のあるテクスチュアなど、中川さんの演奏するピアノの音色を思わせる繊細さを強く感じました。
そして、今日はまた中川さんの別のオーケストラ作品の初演、この極端な初演のブッキングの偏りも中川ワールドといえるのではないでしょうか。
(終演後、楽屋に行ったら、今日の作品のスコアを電車に忘れてしまって、熱海まで取りに行かなければならない、との話を伺いました。さすがです)
さらに、11月29日の双子座三重奏団でも、中川作品を大量に演奏しますので、是非ともご来場下さい。