「ソング・ブックス」は89曲からなる歌手のための作品集であるが、そのタイトルとは裏腹に「山火事の録音を再生する事」と指示があるだけの「歌」でない作品も含まれている。どの作品をどういう順序で何人の歌手で演奏するかは全く自由で、それぞれの作品も図形楽譜も含む多義的な解釈を必然的に生み出す方法で記譜されているため、演奏者次第で出てくる音の結果は当然全く異なったものとなる。いくつかの作品には声を電子的に変調させるものがあるが、演奏者が電子変調の結果を意図的にコントロールできないように巧みに作曲されているものも多く、唱法の使い分けによる声の音色のパレットをさらに拡張している。
ケージのこうした作曲法は一見演奏者に自由を与えているようであるが、ケージの指示に従って自分自身用の演奏用ヴァージョンを作る作業は実は結構「面倒臭い」ものである。その面で複雑な作業の指示に従う過程で、演奏者は様々な選択や決定をしているにも関わらず、自分の演奏結果をコントロールできないし、もちろん作曲者自体も演奏結果をコントロールできない。こういうところに音楽を「意図」から解き放たれた「音そのもの」に回帰させようというケージの思が反映している。
