「コメット」「ヴィブラ・エルーファ」「ピアノ曲VI、XIII、XV」


 今回の講習会で打楽器のための2つのソロ作品が演奏されました。
 1つ目は「コメット」というタイトルの打楽器ソロとテープのための作品ですが、「金曜日」の「子供の戦争」からの派生作品で「ピアノ曲XVII」と同じテープを使用します。打楽器、あるいはシンセサイザーのパートには大まかなピッチの指定があるだけで演奏者はそれをもとに自由に音色やリズムを選んで自分用の演奏ヴァージョンを作り、それをテープ音楽と同期して演奏します。打楽器ソロのヴァージョンは2000年に世界初演され、その時にも聴きましたが、当然ながら演奏者が異なると作品の印象が全く異なります。しかも、今回は奇しくも打楽器クラスの講師のミヒャエル・パットマンと受講生のスチュアート・ゲルバーの2人の演奏を聴き比べることが出来ましたが、受講生のスチュアート・ゲルバーの演奏の方がはるかに興味深かったという微妙な展開になってしまいました。
 ミヒャエル・パットマンはまじめにさらうし演奏も性格なのですが、この種の作品に必要な「作曲家」としてのセンスやユーモアに欠けていて、演奏としては非常に退屈でした。打楽器に様々なエフェクターを繋いで音色を電子的に変調していたのはアイデアとしては悪くないのですが、変調の度合いが強すぎてしばしばテープから流れる電子音との区別がつかなくなっていました。スチュアート・ゲルバーは以前の受講生のコンサートでの「コンタクテ」の驚異的な演奏がいまだに印象に残っていますが、ああいった「前衛」時代の作品だけでなく、「コメット」のような近作も巧みに演奏する能力を持っていて、ユーモアとアイデア、美しさに満ち溢れたすぐれたヴァージョンを聴かせてくれました。
 ちなみに2005年の講習会では打楽器の講師はこのスチュアート・ゲルバーに交替し、ミヒャエル・パットマンは1曲ゲスト奏者として演奏するに留まっています。
 もう一曲は「ヴィブラ・エルーファ」と題されたヴィブラフォーン・ソロのための作品です。実はヴィブラフォーン・ソロのための作品はシュトックハウゼンにとって初めての作品となります。
 「金曜日」の後半でフルートとバセットホルンによって演奏される愛らしい作品「エルーファ」のヴィブラフォーンによる版がこの作品ですが、管楽器と打楽器という音響特性の全く異なる楽器編成の違いを積極的に作曲に応用しています。ペダルを多用して残響音を残すことによって原曲とは全く異なる趣を醸し出していますが、この作品の演奏に関してもミヒャエル・パットマンの「色気」のなさが浮き彫りになりました。

 鍵盤楽器のための作品は、伝統的なピアノのための大作「ピアノ曲VI」と「ピアノ曲XIII」がピアノ・クラスの若い2人の講師によって2曲演奏されました。ベンヤミン・コブラーがVI、フランク・グートシュミットがXIIIをそれぞれ演奏しました。どちらも演奏するのに約30分かかる大作ですが、作品のキャラクターは全く異なっています。「ピアノ曲VI」は常時変化するテンポ(テンポ変化は五線の上にグラフ上に記譜されています)と一見取り留めのない楽想の把握が非常に難しく、その割には演奏効果が地味なのでピアニストには敬遠されがちですが、実は静謐の中、音が散らばったり集まったりする様が美しい隠れた名作です。
 「ピアノ曲XIII」は『光』の「土曜日」からの派生作品で、ありとあらゆる内部奏法や補助楽器、声も使った曲芸的な演奏技巧の必要とされる作品ですが、この大曲を暗譜して弾いていたので、そうしたパフォーマンス的な様子が違和感なく感じられました。ただ、フランク・グートシュミットの「真面目なピアノ青年」的なヴィジュアルとピアノの鍵盤にお尻をのせてしまうようなアクションは微妙にミスマッチで、それは伝統的なオペラ演奏でよく生じる歌手と役の相性の問題であるといえるでしょう。
 さて、この作品での頻出する内部奏法などにはピアノの音色を拡大する目的があるのですけれども、そうした方向性がシンセサイザーを前提とした作曲に発展していくのは自然なことだと思います。
 その第一作として作曲されたのがシンセ・ソロとテープのための「ピアノ曲XV」(もはや「ピアノ曲」という訳は不適切ですがうまい訳が思いつかないので便宜上こう訳しておきます)ですが、これは「火曜日」の幕切れの部分に当たります。シンセ奏者はこの作品の演奏のために必須の100種類以上の音色をプログラミングしそれを次々と瞬時に切り替えながら、記譜された音楽だけではなく、作品のあちこちに配置された部分で「即興演奏」も要求されます。
 この作品を演奏したシンセ・クラスの講師アントニオはいかにも「シンセ・ヲタク」な風貌をしているので、「シンセ狂」という別タイトルも付けられたこの作品の演奏にはぴったりでした。

 ちなみに、ほとんど半世紀前に計画されていた「ピアノ曲」を21曲のセットにするプランはここに来て完結する雲行きになっています。
 XVI、XVIIは「金曜日」からの派生作品であることはすでに知られていますが、XVIIIは「水曜日」のフォーミュラをもとにした作品、XIXは「日曜日」のSONNTAGs-ABSCHIEDの別ヴァージョン、XXは現在作曲中の新しい連作「KLANG」の「第1時間目」の(左右の手のテンポが異なる)オルガン・パートのシンセ・ヴァージョンということらしいです(XXIに関しては不明)。

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