今年は「水曜日」からの2つの作品「水曜日の迎え」「ヘリコプター弦楽四重奏曲」が演奏されました。
「水曜日の迎え」は「水曜日」全曲演奏の際、開演に先立ってロビーなどで流される8チャンネルの電子音楽で「水曜日」の最終場面である「ミヒャエリオン」の背景で使用される電子音楽の素材をもとに作曲されています。薄いシンセの持続音が空間を漂い続け、その上にカティンカやシュトックハウゼンの声がわずかに重なったりする一見地味な曲ですが、アントニオによる絶妙なシンセのプログラミング(「ジー」っという独特な質感が印象的でした)や空間移動の効果の巧みさもあって50分という長大な作品にも関わらず飽きることなく楽しむことが出来ました。
「光」の電子音楽としての側面はあまり語られることがないようですが、テクノ好きな人なら「ハマって」しまうであろうド派手なデジタル・シンセの重厚なサウンドが印象的な「火曜日第2幕」(息子のジーモンが全面的に協力)や、「金曜日」全編で聴かれる陰鬱な電子音の海とカティンカとシュトックハウゼンの声をキテレツにモジュレートした異様なサウンド(この電子音を使用した「ピアノ曲XVI」も名作です)など、もっと注目されても良いと思います。
「火曜日」「金曜日」に引き続いて作曲された「水曜日」においては第4場面の「ミヒャエリオン」と第2場面の「オーケストラ・ファイナリスト」で電子音楽が使用されていて、それぞれの電子音楽の部分のみ抜き出して再構成されたものが「水曜日の迎え」「水曜日の別れ」ですが、前作の重厚な感じに対して軽やかで繊細な電子音の音色が印象的です。この感じは「日曜日」のいくつかの場面でのシンセの音色と共通する部分がありますが、これにはジーモンの後継として現在までシュトックハウゼンと濃密にコラボレートしているシンセ奏者アントニオの影響が大きいと思います。
ちなみにアントニオはここ5年間ほどシュトックハウゼンの楽譜の浄書も手がけていて、コンピューターを駆使してシュトックハウゼンの複雑な楽譜をデジタル化しています。(彼はなぜか日本のマンガにも興味をもっていて先日の来日公演の合間をぬって渋谷の某マンガ店にマジンガーZの漫画本を大量に買い込みご満悦でした。彼に初めて聴いたシュトックハウゼンは何か、尋ねてみると「暦年」という答えが返ってきました。私とほとんど同世代なのですが時代を感じさせますねぇ。)
今回もうひとつ演奏された「水曜日」からの作品「ヘリコプター弦楽四重奏曲」はもちろんヘリコプターを使った実演ではなく、8チャンネルのテープ上演でした。8チャンネルといっても「水曜日の迎え」のような単に8チャンネルのスピーカーを聴衆が取り囲むだけでなく、上方、下方それぞれに4チャンネルのスピーカーを立方体状に配置する「オクトフォニック」なシステムでした。前後左右の4方向から弦楽四重奏の各奏者の音が聞こえ、ヘリコプターの離陸と着陸に合わせて全体の音像が上下する仕組みになっていています。チェロの過度に強調された低域が少し気にはなりましたが、四方からヘリコプターのプロペラが爆音で鳴り響き、弦楽四重奏の響きがそこに複雑に絡まる様は快感でした。
この作品はヘリコプターを使う、という奇想天外な発想ばかりが語られがちですが、本体の弦楽四重奏の演奏する内容にも注意が払われるべきだと思います。ミヒャエル、エーファ、ルツィファーの3つのフォーミュラが4つの楽器で複雑に交錯しながら演奏されるのですが、フォーミュラを聴き取ることが出来れば3つのフォーミュラが空間移動しながら絡み合うように聞こえる訳で(「アイ〜ンス、ツヴァ〜イ」という叫び声もルツィファーのフォーミュラの一部でこちらは空間移動の効果がもっとも知覚しやすいです)、そこにヘリコプターのプロペラ音とブレンドされるように仕込まれたグリッサンドを伴ったトレモロやコル・レーニョの不規則な打撃音が組み合わされ、数少ない音楽素材と「無茶な」演奏設定から多彩な音楽表現を引き出すことに成功しています。