「光」からの「木曜日」からの楽曲によるコンサートでは「フォルメルと入場」「TANZE LUZEFA」「使命と昇天」「見えない合唱」の4曲が演奏されました。この日はこのプログラムの前に「ツィクルス」「ピアノ曲X」「テレムジーク」といった「古典的な」作品によるプログラムも演奏されたのですが、こちらはステューデント・コンサートのレッスンが長引いたために残念ながら聴くことができませんでした。
「木曜日」からのプログラムも「TANZE LUZEFA」の一曲は同様の理由で聴くことができませんでした。
「フォルメルと入場」はトランペット・ソロによるごく短い作品でマルクスが演奏しましたが、つまらないミスが目立ちマルクスにしては少し不調な感じがしました。彼の恐るべきテクニックと音楽性を知っているだけに少し残念。
「使命と昇天」は「木曜日」第2幕「ミヒャエルの旅」(楽器編成はオーケストラと数人のソリスト)の後半の部分をトランペットとバセットホルンの二重奏で演奏できるように編集された作品で、トランペットは同じくマルクス、バセットホルンはスージーではなく、受講生のバーバラ・ブアマン(昨年のステューデント・コンサートで「ハルレキン」を演奏し高い評価を受けました)が急遽担当することになりました。こうした措置は若い演奏者にもシュトックハウゼン作品の演奏の伝統を新しい世代に伝えていこうとする一つの試みなのでしょう。
この作品では二人の楽器奏者がオペラ歌手の様に演奏しながら演技を行います。トランペット奏者がミヒャエル、バセットホルン奏者がエーファとしてステージ上で「演じる」訳ですが、音楽的対話が演技としての対話に対応することによって、音楽と(演奏者の)動きが巧みに統一されているのです。どちらの奏者も、ものすごい超絶技巧を使った至難なパッセージが連続する訳ではないので、表面的なテクスチュアはどちらかというと一見シンプルなのですが、奏法の楽器の特殊奏法や空間的配置よる音色の計算された変化、ミヒャエルとエーファの両フォルメルの交替や交錯など、洗練された作曲技巧による音の織物を堪能できる美しい作品です。
特に二人の奏者が演奏しながら一緒に舞台裏へ退場していったあとの螺旋を描くように上昇していくように聞こえる音響効果や照明の効果は非常に絶妙で神秘的でした。
少し話は変わりますが、今年からシュトックハウゼン関連のヴィデオを借りて自由に見ることができるシステムができ、昨年BBCが制作したシュトックハウゼンの番組のヴィデオを見ました。この中でロイヤル・オペラで上演された「木曜日」第2幕からの抜粋の映像が使われていたのですが、音楽的にももともととても面白いこの部分が演技を伴って演奏されると、さらに生気を持った魅力的になっていました。是非とも実演を見てみたいものです。
休憩を挟んで、最後に「見えない合唱」が演奏されました。
この作品は「木曜日」の第1幕と第3幕で演奏者によって実際に演奏される音楽と同時に、テープによって再生される電子音楽のパートを、独立した作品として演奏するために編集した版です。「電子音楽」と言ってもタイトルから分かる通り、使われている音源は基本的に合唱の録音のみ(一部でバセットホルンの短いパッセージの録音も挿入されている)で、これらの録音が電子的に変調されている訳でもないのですが、16声のパートを聴衆を取り囲むようにミックスしたり(実際は8チャンネルのスピーカーで演奏されます)、非常に細かい母音、音域、テクスチュアの操作、効果的な特殊唱法の使用(例えば全員がバラバラのリズムで舌鼓を打って水がピチャピチャ鳴っているような音響を生み出すなど)などによって、人間の声から電子音楽に匹敵する多彩な音色を引き出しているのです。
この作品は(ステレオにミックスされた)CDで聴く時にはこうした複雑で多彩な響きをクリアーに再現することがほとんど不可能なのですが、聴衆を取り囲むような8チャンネルのスピーカーで聴くことによってはじめて、作曲されたこれらの微細な効果を十分に味わうことができました。
母音の変化がいわゆるフィルターの役割を果たして音色の明暗を生み出し(これは「シュティムング」以来の作曲技法です)、その変化が異なる方向から異なるテンポで生み出されると、えも言われぬ立体感が生み出され、体中を優しくマッサージされているような感覚になりました。CDではこうした本来の素晴らしさをなかなか実感できないし、かくいう私も実演に接してこの作品の神髄をようやく理解できた訳で、貴重な体験となりました。