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 エレン・コルヴァーは今回の講習会において、1950年代の名曲「ピアノ曲I~V, XI」を演奏しました。まずI~V番を続けて演奏し、キャシー・ミリケンのオーボエ曲の演奏を挟んでXI番を一度、それから休憩後にもう一度XI番を演奏しました。
 「光」の一部分として作曲されたXII番以降(現在XVII番まで作曲されています)ではピアノの音をマイクを通して増幅する前提で作曲されているのですが、それ以前に作曲された今回の作品もマイクを通して演奏されました(というかシュトックハウゼンはいつもそうしているのだと思います)。
 このお陰で曲の細部までもらさず聴き取ることが可能となり、エレン・コルヴァーのシャープな演奏をストレスなく楽しむことができました。
 クラシック端の演奏家には、マイクやPAなどに極端な嫌悪感を示す人が少なくありませんが、2000人近く収容できる大ホールでの残響まみれで細部の聞き取れないアコースティック・ピアノの演奏会のあり方に疑問を持っていた私にとっては、大いに納得できる措置だと感じました。
 
 もう一つ興味深かったのが、XI番の演奏です。
 この作品は大きな紙に19の楽譜の断片がちりばめられていて、それを任意の順序で演奏していく作品で、当然演奏によって作品の様相は大きく変化します。そして、単に断片から断片へと演奏していくのではなく、テンポ、ディナーミク、音域、アタックなどを細かいルールに瞬時に従って変化させなければならず、一見演奏者に大きな自由を与えているようでいて、実は演奏者を巧みにコントロールしているという恐ろしい作品であるともいえます。
 この曲の作曲当初においては、例の巨大な楽譜を無理矢理ピアノの譜面台に置いて演奏していたのだと思いますが、今回の演奏に際してエレン・コルヴァーが手にしていたのは普通の大きさの楽譜でした。
 つまり、あらかじめ、その時に演奏するヴァージョンを確定された譜面に書き直してから演奏した、と言うことですが、これは瞬時に様々なパラメーターを判断して演奏することによって起こりがちな演奏レヴェルの低下の防止を目的としたものだと思われます。
 
 演奏者に大きな選択の余地は与えるが、それを本番で即興的に実現するのではなく、あらかじめ自分自身のヴァージョンを作っておくという考え方は、ピアノ曲XV番以降に取り入れられていますがこのことについては、別の機会に説明致します。
 
 さて、この演奏会にタイミングを合わせるかのように、エレン・コルヴァーの演奏による「ピアノ曲I~XIV」の3枚組CD(全集56)が発売されたので、講習会会場のStockhausen Verlagの売店で手に入れました。(私が実際に払った価格は約6000円、でも東京のタワーレコードだとほとんど2万円します。このひどい価格差なんとかならないでしょうか・・・
 
 早速日本から持ってきていたCDウォークマンで聴いてみましたが、このチープな再生装置でも録音の良さが十分に分かる恐ろしく完成度の高いCDでした。
 解説を読んでみると、一番低い鍵盤の音は最も左、一番高い鍵盤の音は最も右という定位、つまり聴いている人があたかもピアノの椅子に座っているかのような感覚を起こさせるようなミキシングを施していて、この録音効果を最大限発揮できる様、付録としてスピーカーの調節用のテスト音源まで収録されているという手の込みようでした。
 特にXIII番では様々な特殊奏法が頻発するのですが、内部奏法の箇所では演奏している弦の位置からきちんと音が聴こえてきますし、鍵盤の両端に取り付けられたインディアン・ベルももちろん左右から聴こえてきます。
 録音に関してもう一つの特徴は極端にダイナミック・レンジが広いことです。シュトックハウゼン自身も解説の中で通常よりもオーディオ装置のヴォリュームを少し上げて再生することを求めていますが、確かにサウンドが異様な迫力で聴こえてきます。
 演奏が素晴らしいのはもちろんですが、この異常なまでにこだわった録音はシュトックハウゼンファンだけでなく、オーディオ・マニアにも大きくアピールするものがあると思います。
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